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112月 2020

凪良ゆう「流浪の月」を読む(ゆるい読書会 Vol.6)

凪良ゆう「流浪の月」を読む(ゆるい読書会 Vol.6

A「今日は、今年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの『流浪の月』についての読書会です」

B「いや〜、面白かったです。以前取り上げた『ペスト』とか『苦海浄土』に比べると、めっちゃ読みやすくて、一日で読んじゃいました!」

A「そんなに『ペスト』とか、読みにくかったかな…。でも、今回の小説の設定が絶妙でしたよね。昔、自分を”誘拐”した青年(文)のことを忘れられず、その青年と再会して真実の愛を求める女性(更紗)の物語。愛とは何か、「他者」をどう理解するかという普遍的なテーマに加え、性的暴行の被害者心理とか、DV男の心理、デジタルタトゥーの問題とか、現代的なテーマがいくつも散りばめられていましたね」

ラベリングの問題について

B「DV男って言っちゃうと身も蓋もないですけれど、私はなんとなく自分が更紗の婚約者だったら、あーいう風に振る舞ってしまう気持ちも分かる気がしました」

A「そうなんですよね。この小説の面白さって、登場人物の誰にも感情移入できてしまうような、そんな魅力を持ってますよね。DVをしてしまう婚約者とか、ストーカーみたいに文を追いかけてしまう更紗の心理とか」

C「でも、”DV男”っていうラベリングも安易なのかもしれませんね。結局、この小説のテーマの一つが、犯罪者とか被害者とか、社会的にラベリングされた人の心理(真実)をどう理解するか、というところなのかも。一旦ラベリングしてしまうと、その付加されたイメージをまた取り去って考えるのがすごく難しい」

A「どうして人ってラベリングしたがるんでしょうね。ラベリングすることで、自分の中で意味が分かりにくいことを、分かりやすくしたいという心理なんでしょうけど」

D「アメリカの分断とかを見ていると、相手のことを『社会主義者!』とか『差別主義者!』という風にラベリングしながら攻撃している。それはある意味、一面しか捉えていないんでしょうけど」

E「相手をラベリングして攻撃する人って、ある意味、その人自身も傷ついているのかもしれませんね。例えばその人にとって、経済状態とか過去のトラウマとか、のっぴきならない一線に触れるイシューだと、攻撃的にならざるを得ないのかも…」

A「なるほど…深いですね。自分の“トラウマ”に触れないイシューだったら、たしかにそんなにムキにならずにすむというか、価値中立的にいられますよね」

 

真実の愛と誤解されることについて

A「でも、この更紗と文の愛は、真実の愛なんでしょうか。それとも、いびつな関係性の中での愛なんでしょうか」

B「”真実の愛”って何ですか?真実の愛を求める若者たちのラブワゴン『あいのり』みたいな(笑)」

C「二人の関係性は、肉体的なものを超えていましたよね。いわゆる『プラトニックラブ』(死語?)みたいなものなんでしょうけど」

D「それがどんなものであれ、他人にどんなに誤解されようとも、二人がお互いを必要としていて、互いに側にいれば幸せという状態なんなら、いいんじゃない?」

B「でも、すべての人に誤解され続けるって、苦しいですよ。だから二人は素性を隠したりせざるを得なかったわけだし。仕事したり、社会と関わっていく必要があるわけで」

C「僕は、例えば、身内とか親に誤解され続けるのがモヤモヤします。親が『お前ってこういう人間でしょ』ってイメージを押し付けてきて、そうじゃないんだけどなぁと思っても言えなかったり。そういのが、なんだかモヤモヤするんですよ」

D「そこ、結構深いテーマなんですよ。例えば、エドワード・サイードという人が提唱した『オリエンタリズム』という概念があります。これ、西洋人にとっての『非西洋』のイメージなんですけど、決して、東洋圏の人が発したイメージではなく、西洋人が非自己(他者)としてのイメージを勝手に押し付けただけという…。で、東洋圏の人が自分を理解してもらおうとするときに、英語(西洋圏ドミナントな言語)で発信しなければいけない、つまり、相手のふんどしで相撲をとらなければいけないという矛盾もはらんでいて、誤解され続けるという構造を打破できないという…」

A「Dさんはいつも難しいことばかり言うから、ちょっとそれも良く分かりませんが(笑)、『他者をどう理解するか』というテーマは私も難しいといつも思っています」

 

本の帯とアナログの良さ

A「あらためて今回の読書会、いかがでしたか?」

D「今回は、A先生が『流浪の月』推しで、課題本が決まったと思うんですが、あらためてなぜこの本を選んだんですか?」

A「この本が本屋大賞に選ばれたということもあるけれど、本の帯に『せっかくの善意を、わたしは捨てていく。そんなものでは、わたしはかけらも救われない』とあったんですね。この文言にすごく惹かれたんです」

E「へえ〜、そうなんですね!実は私は、今回Kindleの実用性にも気づいて、電子書籍もいいんじゃないかって思ったところだったんですが、Kindleには帯が付いてないんですよ。やっぱり、本ってなんか紙の本だからとか、帯があるから、っていうところの魅力もありますよね」

A「たしかに、そうかもしれませんね。やっぱり本って、厚みのある紙の本だから良い、っていうアナログさの魅力もあるかも」

D「僕は引っ越しをするときに500冊くらい、本をPDFにしました(笑)」

A「アナログと、デジタルと、その間と。人間同士の関係というのも、デジタルな時代だからこそ、アナログな貴重さというのが際立つのかもしれません。今日も豊かな時間をありがとうございました」

(孫)

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