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105月 2021

よい医師になるための登竜門 医師国家試験の世界

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医師国家試験とは︖

『国家試験』は国家資格や国からの能力認定を得るために行われる試験です。
身近なところでは運転免許、教員があり、他にも、公認会計士、司法書士、税理士なども国家資格です。
医師、歯科医師、看護師になるためにも、国家試験に合格することが必要です。他にも、医療機関で出会う、診療放射線技師、理学療法士(リハビリテーション)、薬剤師も国家試験を受験して合格した人たちです。
その中で、医学科生が受験する『医師国家試験』は、毎年1回、2月上旬に2日間にわたって行われます。問題はすべて、5つかそれ以上の選択肢から1つあるいは複数を選ぶ選択形式で、文章で答えさせるものはありません。また、患者さんの診察をする場面もありません。

 

 

医学書やガイドラインにひたすらこだわる医師は『間違える』

医学科生は6年間の大学生活で、内科、外科、小児科などの病気の知識、診断、治療法、そして公衆衛生など、数多くの知識を習得します。
今まで、医師は医療機関の中で「何も間違えない」存在とみられ、医療スタッフと患者さんとの中ですべての決定権は医師にあるような風潮が根付いていました。
しかし、医学書に書いてある内容がすべての患者さんに当てはまるわけでありません。例えば、以下のような事例は医学書に書かれていても患者さんによっては誤りであり、絶対にしてはいけないこと(禁忌)です。
・ 『ニューキノロン』という抗生物質(抗菌薬)が効く病気であったが、処方をした患者さんが妊娠していた。
→  ニューキノロンを妊婦に与えると生まれてくる子供に重大な影響を与えるので、絶対に投与してはいけない。
・ ある病気の特効薬を処方した患者さんが体調が悪いと仰って来院した。その患者さんに「副作用が出ても我慢して飲んでください」と諭した。
→  医師は患者さんの健康を害することが無いよう、治療に関する希望を尋ね、新しい治療方法を提案しなければならない。
・ 意識がもうろうとしている熱中症患者さんに「水を飲んでください」
→ 水を飲ませようとしているうちに患者さんは気を失ってしまう。急いで点滴をつなぐなど、いのちを救うための最善策をとらなければならない。

 

 

医学書にこだわらず人を診る医学科生こそ、合格できる

このような事例は、すべて最近の医師国家試験に出題されたものです。猛勉強した医学科生はほぼ全員間違いに気づくはずと思われるかもしれませんが、実際には毎年1~2割の受験生は間違って選んでしまいます。そのような医学科生の特徴は以下の通りです。

患者さんに重大な危害を与えるかどうかという見地で学んでいない

医師になるために覚えることはとても多く、医学科生はいくら猛勉強してもすべてを暗記できません。そのなかで、誤った医療で患者さんを入院、ひいては死に至らないよう、絶対にしてはいけないこと(禁忌)が身についていない医学科生には医師免許を与えることができません

あくまでも医学的に正しいかどうかで判断しようとする

患者情報は問題文だけで、試験中に実際の患者さんを診ることはありませんが、手術が終わっ た直後で患者さんがもうろうとしているとか、赤ちゃんを身ごもっている女性であることは、文面から察することができるはずです。
患者さんの背景を知り、医学書にこだわらず個別の患者さんに対する最善策を考えることができる医学科生にこそ、医師免許を与えるべきです。

過去に出された問題(過去問)をみつけると、問題文をよく読まずに早合点してしまう

毎年、過去に出題された問題の焼き直しと思われるものがみられます。筆者も試験に過去問が 出題されると大喜びしていました。しかし、問題⽂をよく読んでみると仮想患者さんの病名や体の状況がほんの少しだけ変わっています。そのわずかな変化だけで、解答は大きく変わってしまいます。

同じ治療や検査方法でも、患者さんによっては強く推奨されるものと、害を及ぼすのでやってはいけない基準があります。そこで、過去の国家試験問題集の丸暗記ばかりして重要な情報が目に入らない受験生の多くは、間違った解答をしてしまいます。

 

 

医療のプロフェッショナルとして不適格な医学科生は3つのふるいにかけられる

読者の皆さんは、とにかく高い点数をとって合格ラインを超えれば医師免許が与えられると思われるかもしれませんが、実は、そうではありません。
医師国家試験を所管する厚生労働省は、以下のような厳しい条件を受験生に課しています。

① 医師として必ず知っておくべきことに習熟している(必修問題)
将来、どの科に行っても、医師として必ず知っておく知識は共通しています。
国家試験では、このような必修問題を8割以上正解する必要があります。その中で、仮想患者さんの様子(病歴)から適切なこと(不適切なこと)を選ぶ問題が全体の
75%を占めています。つまり、各科の専門的なことをよく知っていても、日常よくみられる患者さんに対して基本的な対応ができない受験生は合格することができません。

② やってはいけないことが身についている(禁忌肢)
先ほど例示した禁忌となる選択肢を含む問題を4問以上間違えると、他ができていても不合格となります。
仮想患者さんに関する治療や検査だけでなく、医師法違反などの法規に関するものなど、禁忌肢問題はまんべんなく出題されています。
2021年度に行なわれた第115回医師国家試験では、手術で傷が残っている患者さんが心筋こうそくになったときに血の塊を溶かす薬を投与してはいけないこと、放置しても自然と治っていく子供の病気に手術をすすめてはならないと、適切に判断できない医学科生は不合格となりました。

③ 患者さんによって、医学書の内容を押し付けず経過観察することができる
医学書やガイドラインを読むと、いろいろな病気に関する最新の治療法に触れることができますが、各々の治療には想定される効果と副作用があり、治療によっては有害無益なものがあります
実際の症例問題では、挙げられたすべての選択肢とも患者さんには不適切、時に禁忌であり、治療行為を行うことを思いとどまる「経過観察」が最適であると判断させる問題が増えています

私たちベテラン医師でも難しいのに、医学科生にとっては経過観察の判断は難しいのではないでしょうか。また、人生を左右する医師国家試験であり、過度の緊張で判断がゆらぐこともあると思いますが……。
さらに、当年度から問題数が400問に減ったため、①②のような基本的なことを正解しなければ大きく減点され、受験生にはより高いハードルとなっています。このように、必修問題、禁忌肢、経過観察問題などのハードルを設けることによって、厚生労働省は医療現場に出ることが適切な医学科生を正しく選抜する仕組みを確立しようとしています。

そうなると、筆者が学生だった時代よりも圧倒的に質が高い医学科生が医師免許を取得し、現場で活躍しているのですね。

結論:問題集や知識の丸暗記だけではなく、病気の仕組みに関して習熟し、臨床実習にも真剣に取り組まないと、医師になれません。
5、6年生の医学科生の皆さん、頑張ってください!
筆者も医師として必ず習得すべきことが抜け落ちないよう生涯学習を続け、お薬や治療を患者さんに勧める際にも本当に害を及ぼさないかを確認して慎重に対応してまいります。

Author: 浜田 紀宏


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