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141月 2022

ゆるい読書会『海をあげる』

令和4年1月 読書会を開催しました。参加者のお1人に感想を寄せて頂きましたのでご紹介します。

 

2022年あけて初回となる「ゆるい読書会@とっとり」が開催された。今回の課題本は、沖縄で少年少女の支援と調査をしている社会学者の上間陽子さん著の『海をあげる』。沖縄で大学時代に実際にフィールドワークをされていた方の参加もあり、声を聞くということの意味を改めて考える時間だった。

文体は非常にポエティックで、エッセイのように実体験を交えながら静かに語られていく。でも、この本全体を通して著者が伝えたい思いは、「怒り」である。過去も現在も、構造的差別にさらされ続けている沖縄の人々の「どうしようもなさ」。それが、淡々とした日々の描写や著者の幼い娘のあどけない言動から滲みでてきて、読んでいる者をヒリヒリさせる。

自身も親から暴力を受けて育ち、恋人に売春をさせて生活していた少年の言葉は、言葉足らずで断片的だ。しかし、上間さんと語るうちに、最初はぽつりぽつりと話していたことばがぶわーっと溢れ出てきた。詰まったことばのつっかえを取り除くこと、声にならない声を代わりにことばにすること。上間さんは丁寧に、そういう作業を重ねている方なのだと感じる。それは、以前この読書会の課題本でも扱った石牟礼道子さんの『苦海浄土』にもつながる姿である。「聞く耳を持つものの前でしか、ことばは語られない」。

途中で、実父か性的虐待を受けた17歳少女に話を聞く精神科医の話の聞き方について話題になった。医師―患者関係の中で限られた時間の中で情報を聞き出すことと、上間さんのようにじっくりとその人自身のストーリーに耳を傾ける姿勢との違いとは何なのか。エビデンスを重視してきた医学も、患者のコンテクストや背景に目を向け始めている。こうして医学的視点と社会学的視点を融合させていくことが、目の前の方を一人の人として立体的に感じていくとても大切なヒントなのだと感じた。

(助産師・コミュニティナース 中山早織)

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