ゆるい読書会@とっとり:「急に具合が悪くなる」を読む
さる6月19日に宮野真生子/磯野真穂著「急に具合が悪くなる」(晶文社)のオンライン読書会をおこないました。
本書は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者宮野さんと、人類学者の磯野さんが、20年の学問キャリアと互いの人生を賭けて交わした20通の往復書簡となっています。
医学生と医師、助産師などが参加し、以下のようなことが話題に挙がりました。
• 「良い患者」って何だろう?
• 医師の態度として父権主義(パターナリズム)は良くないとされているが、「選択」することに疲れた患者にとっては、ときに医師に「任せる」ことが楽なこともある
• 「先生のご家族だったらどうしますか?」と患者に聞かれたら、自分ならどう答えるだろうか
• 対話ができることが大事なのでは(患者のリテラシーがどうかではなく、価値観を知りたい)
• ラベリングは思考停止を起こすが、ラベリング(例えば「診断」)によって安心する部分もある
• ジェンダーの多様化:自分はどのカテゴリーなのか、細かいラベリングの中で迷い続けてしまう部分もあるかも
• 「責任」を個人に押し付ける社会:「選択」の自由を与える代わりに「自己責任」にする
• 宮野さんの考えが確率論的なものから運命論的なものに変わっていく過程(九鬼周造の「偶然」の哲学を軸に)
• 「偶然」と「運命」の捉え方が興味深い(勝新太郎も「偶然完全」という造語を作っていた)
九鬼周造の「偶然」の哲学を専門にしていた宮野さんが、自分自身が末期がんになったとき、それをどう受け止めるのか、その生き様と哲学が語られつつ、人類学者の磯野さんが、一人の親友として、そして一人の研究者として、魂から言葉をぶつけていって、宮野さんがそれに応答するという、非常にスリリングな展開で進むのが印象的でした。一人のがん患者とその友人の他愛もない会話や、個人としての思いが綴られつつ、学問的にも哲学・人類学・社会学など多岐に渡り、その深みと厚みを増していたように思います。
(孫大輔)