家庭医専攻医に対する家庭医としての「あたりまえ」をみなおすワークショップの活動報告のLetter論文が掲載されました。
Journal of General and Family Medicine誌に「Report from an online workshop on family physician socialization: Reaffirmation using a hypothetical case(家庭医の社会化についてのオンラインワークショップの報告:仮想事例を用いてみなおす)」というletter論文が掲載されました(フリーで全文公開されています)。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.587
【論文の概要】
医療従事者は、専門家として社会化をされる。専門職の社会化とは、その職種における期待や価値観、信念、伝統、責任等が無意識のうちに内面化していく過程のことを言う。この過程の中で専門家としてのアイデンティティが形成される。社会化は重要な過程である一方で、医学生が医学教育を受ける中で共感性を欠如して生物医学的側面を重視するようになることのような負の側面も持ち合わせている。
2022年2月、若手医師のための家庭医療学冬期セミナーにて、「家庭医としての『あたりまえ』をみなおす」というオンラインワークショップを行った。
ワークショップでは、以下の仮想事例を提示しグループディスカッションを行った。
仮想事例:2040年、高性能超音波と少量血液検査で98%の診断精度を持つAI診断ツールが開発された。このAIは、患者の診察時の発言や表情から、説明モデルを作成することができる。このツールは家庭医として勤務する病院でも導入されており、患者さんからの評判も上々であり、患者さんからは、「すべての診療科にAIを組み込むべき」という意見も出ている。
グループディスカッションの中で、家庭医の存在意義が脅かされると感じた参加者が多かった。しかし、参加者は議論を進める中で、自分たちの強みを再認識し、向上させることの重要性について述べるようになった。
本ワークショップでは、参加者が自分のアイデンティティを意識することで、社会化された自分を自覚できるように、自分の専門分野と自分の役割の両方が脅かされるような仮想事例を提示した。この事例をめぐる議論は、家庭医の役割の再認識につながったが、この議論が臨床の実践にどのような影響を及ぼすかは不明である。さらに、家庭医社会化の弊害については議論されなかったので、今後の研究課題としたい。
(谷口 尚平)