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52月 2025

教養ゼミナール「医学・医療に役立つ人文科学の知」開催報告

2024年度に新たに開講した1年生向けの選択授業「医学・医療に役立つ人文科学の知」の報告です。教養科目の一貫として、谷口教授と私で新たに開講しました。具体的にはジャン=ジャック・ルソー、カール・マルクス、マルティン・ハイデガー、ハンナ・アレント、エーリッヒ・フロム、ミシェル・フーコー、西田幾多郎、宇沢弘文、スピノザという9人に哲学者・思想家などを取り上げました。毎回1人の思想家について、学生に主要概念についてまとめてきてもらい発表してもらいます。例えば、ルソーなら「自然とは何か」、ハイデガーなら「世界内存在とは何か」という形です。その後、こちらで臨床事例を提示します。事例は慢性疾患を抱える患者の事例や、「ワクチンを打ちたくない」というワクチン忌避の事例、ときに映画の一部を見て考えるシネメデュケーションを行いました。

学生らは、哲学者の思想の深さや難解さに苦労しながらも、それを日常的な文脈で捉えたり、臨床事例に即して考えることを楽しんでくれているようでした。例えば、ルソーの「自然状態」について考えたときは、「ホームスクーリングによる教育は子供の自然を守ることができるか」という議論になりました。ルソーが『エミール』で考えたように、適切な教師と環境が整えば、自尊感をもった自立した人間を育てることができる反面、他者との協調性など社会性を育むことができるのかというところに学生たちは疑問を感じていました。一方、臨床事例では「早く逝きたい」という慢性疾患の高齢者の事例でしたが、そうした人生の終末期では機械的に医療のルールを適用するのではなく、ある程度「自然」を重視する医療が良いのではないかと学生たちは考えていました。

さまざまな哲学者や思想家の考えたことが今でも決して古びておらず、私たちの目の前の問題に適応させて考えることができること、またこうした人文科学の知こそが、現代医療における難しい問題(技術発展と生命延長、医療のゴールの変化、公平な医療とは、等)を考える上では不可欠のものとなることなどを、学生は感じてくれたように思います。来年度も同じ授業を続けていきたいと思います。

(孫大輔)

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