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158月 2025

生成AIとともに学ぶということ

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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 ChatGPTをはじめとする生成AIの登場は、医学生の学び方に大きな変化をもたらしています。調べ物やレポートの下書き、症例の整理まで、さまざまな場面でAIを活用する学生が増えており、「AIとともに学ぶ」という言葉が、決して未来の話ではなくなってきました。そして私が学習者として経験してきた大学教育というものは完全に過去のものになりました。 

 こうした技術革新に対して、医学生の教育に携わる私たち教員も、今あらためて「医学教育のあり方とは何か」を問われていると感じます。特に重要だと感じているのは、次の2つの視点です。ひとつは、生成AIを本当の意味で“使いこなす”ためには、使う者自身が正しい知識や論理的な考え方、自分なりの価値観を身につけておく必要があるということ。もうひとつは、AIの精度が今後さらに向上するからこそ、大学の授業そのものは「人と人との対話や思考」に立脚した形式へとシフトしていく必要があるということです。 

 

 

AI時代に問われる判断力  

 現在の生成AIは、医学的な質問にも見事に答えてくれるようになりました。しかし、その内容は常に正確とは限らず、時に医学的に誤った説明や非現実的なプランを提示することもあります。これは、AIが「それらしい」文章を作ることは得意でも、「事実を確かめる」ことは苦手だからです。このとき、出力された情報をそのまま信じてしまうのか、それとも「ここは正しいけど、ここは違う」と見極められるか。その分かれ道を決めるのは、学生自身が持つ医学的知識と、論理的に考える力です。 

 そして医師になったあと、仮に医療における意思決定にAIを用いる時代が訪れるとすれば、AIが示すアイデアを自らの医師としてのスタンスや実力に適したものにうまくカスタマイズできるかどうかは、その人の中に自分なりの価値観が備わっているかにかかっています。 

 つまり、AIを使うためには、まず人間側に“判断する力”が求められると思います。医学生が自らの知識やコアとなる考え方や価値観をしっかりと身につけていなければ、将来的にはAIに“使われてしまう”医師になる危険性もあります。ただし、コアとなる考え方や価値観については、卒業して実際に医師として働き出してからもその醸成に努める必要があります。 

 

 

正解だけではない、医学教育の新しい形 

 もうひとつ、見逃してはならないのは、生成AIの精度が年々上がっているという現実です。数年後には、国家試験の問題すらAIが完全正解できる時代が来るかもしれません。そのとき、私たちの授業や試験はどうあるべきか、これが最近私が考えていることです。

 答えのある問題、パターン化された設問は、AIにとって非常に得意です。しかし、医療現場における判断や、患者さんとの対話には、「唯一の正解」がないこともしばしばあります。そうした曖昧さや多様性の中でどう考え、どう他者と協力するかを学ぶには、人間同士の対話が不可欠です。 

 したがって、これからの医学教育では、グループディスカッションなど“対話的な学び”の比重をもっと増やしていく必要があります。これは従来の知識を覚える教育の否定ではありません。むしろ私たち教員が授業のために作成した資料を学生側が生成AIによって要約し、更に効率よく知識を習得していくことも可能となった今、知識の習得は予習や復習の範疇に含まれ、大学での講義そのものは、あくまでも人同士でなければ出来ない内容へシフトしていかなければ、講義の存在意義がやがて失われていくのではないかと最近は考えています。単に正解を覚えるのではなく、他者と考えを交わし、自分の意見を言葉にする経験を知識の定着につなげたいと思います。 

 

 

より大切になる人間力 

 また、試験の在り方はAIが容易に答えられる形式ではなく、学生が自分で回答する形式が求められると思います。この点においては、むしろ従来のペーパーテストへの回帰が解の1つになると考えています。生成AIは、医学生にとっての“新しい学びの相棒”であると同時に、私たち教員にとってもまた、“新しい鏡”のような存在です。AIが即座に出せる答えを、ただ講義で伝えるだけなら、もはや人間が教える意味は薄れていきます。 

 生成AIは、今後の医学教育にとって避けて通れない存在です。しかし、それは「人間に代わる教師」ではなく、「人間が自ら考えるための補助輪」であるべきだと考えます。 そして人間が自ら考えるためには、その人の中に物事の考え方や自分なりの価値観が備わっていなければいけません。AIとともに学ぶこの時代だからこそ、私は人と人との対話、考える力、判断する力をいっそう大切にしながら、この時代の「授業」とはどうあるべきか考えていきたいと思います。

Author:今岡 慎太郎


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