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219月 2021

コロナ下とアルコール依存症

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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ある日、コロナ下でストレスが貯まり、アルコール依存症になりやすくなっているというニュースを目にしました。どうやらコロナ下でストレスがかかり、また在宅ワークのため飲酒のハードルが下がっているとのことです。これを読んで、以前お会いした2人の患者さんを懐かしく思い出しました。

 一人は初老の男性、Aさん。起きているときは常に一升瓶を抱えている生活を何十年も続けていました。酒の飲みすぎで倒れて入院してからも「酒をやめる気はない!検査も治療もしていらん!俺の体のことは俺が一番よくわかってる、酒で死んだら本望だ!」と豪語していました。全くスタッフの言うことを聞いてくれなくて、私自身も苛立つことは多く、あまり良いコミュニケーションを取ることはできませんでした。最終的には院内でトラブルを起こし強制退院せざるを得なくなったのですが、退院する時の玄関で「好きでこんなことをしているんじゃないんだけどね」とさみしげに私に笑いかけてきました。Aさんとお話したのはこれが最後ですが、この表情がずっと心のなかに刺さっていました。

 私がアルコール依存症について勉強し始めるきっかけとなった出来事です。

 

 

アルコール依存症は病気です

依存症は「日々の生活や健康、大切な人間関係や仕事などに悪影響を及ぼしているにも関わらず、特定の物質や行動をやめたくてもやめられない(コントロールできない)状態」と定義されています。

例えばアルコールを摂取し気持ちよくなれば、ストレスの緩和にも役立つことがあります。しかしそれを繰り返すと、徐々に飲酒衝動を抑える脳の機能がコントロールを失い、自力でアルコール摂取を止めることは困難となります。結果、本人は病気であることを認めたがらず、どんどん症状が進行していきます。手が震えるなどの症状がなくても、アルコール依存症である方はたくさんいます。

 アルコール依存症は別名「否認の病」と言われており、本人が病気と認めたがらないため、適切な紹介や治療が難しい病気です。日本全国でアルコール依存症患者は推定100万人いると言われていますが、専門医の治療を受けているのはわずか4〜5万人程度のようです。

 

 

アルコール依存症患者への偏見

日本は飲酒に寛容な国です。どこでも酒が手に入りますし、社会人なら飲めて一人前といった風潮もあります。しかしそのためかアルコール依存症に対する風当たりは強く、「やめられないのは意志が弱いせい、本人の自己責任では?」といった主張も良く耳にします。しかしアルコール依存症は脳の病気であり、やめられないのは病気のせいです。お酒を飲む人であれば、誰でも少しのきっかけで発症する可能性があります。

 

依存は悪いことか?

「どうしてお酒をいっぱい飲むようになったのですか?」と聞いてみると、「耐え難いストレスから逃げるため」「飲み会や祭りのために勧められて仕方がなく」と、全てが本人のせいとは言い難い状況が多いようです。依存は一種の逃げ道だったのかもしれませんが、依存先がないと生きられないほど辛かったのではないでしょうか。確かにお酒を始めたのは本人ですし、決断の全てを本人の自己責任と断罪するのは簡単です。しかしそれでは誰も幸せになりません。

人間は誰しも何かを支えとして生きていますし、私自身は依存そのものが100%悪いとは言いにくいと考えています。しかし体を壊し、心を壊し、人生に悪影響を及ぼしているのであれば、悪い依存です。本人が助けを求められないのであれば、おせっかいながらも近くで支えたくなります。

 

 

アルコール依存症は、回復の見込みのある病気です

ここでもう一人の患者さん、初老のBさんについてもお話します。彼もアルコール依存症で体を壊し、何度も倒れて病院に運ばれていました。しかし色々お話を聞いてみると私と本の趣味も近く、笑い顔が素敵な方でした。ただコロナで人と会うこともなく独りでやることがなく、ふと一升瓶に手が伸びてしまう、その事に自己嫌悪しつつ、やめることができず苦しんでいる様子も分かりました。

 当初は渋っていましたが、精神科の専門医の助けやBさん自身の頑張りもあり、少しずつアルコール依存症からの回復に向かっているようです。かつては「人生に何の意味もない、いつ死んでもいい」と言っていましたが、「今まで考えられなかった、これからの人生を考えてみたいと思います」と未来のことを話されるようになったのがとても嬉しく感じました。険しい道が続いているかもしれませんが、Bさんの人生に幸あらんことを願っています。

アルコール依存症は脳の病気であると同時に、周囲からの誤解を受けやすい社会的な病気でもあり、そして患者本人もやめられないことに自己嫌悪する心の病気です。

回復の道のりは険しいですが、人と人とのつながりを持つ事が治療の一つに挙げられます。人と人とを分断するコロナの波の中苦しんでいる人や家族、周囲の方がいれば、最寄りの精神科のある病院や保健所に相談ください。誰かに助けを求めることが回復への第一歩です。

【参考】

コロナ下のアルコール依存症 −NHKクローズアップ現代+ https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4558/index.html

厚労省 依存症の理解を深めよう 回復を支援し、受け入れる社会へ(依存症の勉強)https://www.izonsho.mhlw.go.jp/manga.html

鳥取県依存症支援拠点病院 渡辺病院(相談先、依存症の勉強)https://t-alcsien.jp

鳥取県市町村福祉担当課(相談先)https://www.pref.tottori.lg.jp/dd.aspx?moduleid=186836#moduleid186836

 

Author:中井 翼


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