Preloader
 
Home / Blog / 本を読めない医者
268月 2024

本を読めない医者

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
執筆、講演、研修、取材の依頼はお気軽にこちらからお問い合わせください。


医者は本を多く買う 

 医者は本を多く買います。個人差はあると思いますが、少なくとも私はそうです。ふと数えてみると、本棚からは医学書があふれだしうず高く積まれ、持ち歩いているタブレットの中には医学電子書籍が100冊近く入っています。1ヶ月~数ヶ月に1回は学会雑誌が送られてきて、医師用のサイトや雑誌では「おすすめ医学書!」が毎週~毎月のように紹介されています。医者のデスクには大きな本棚がほぼデフォルトで付いていることが多く(少なくとも今までの職場には全て付いていました)、医者が本を多く持っている前提なのかなぁと思います。

 

 

なぜ医学書を買うのか? 

 個人的な偏見も入っていますが、一番は患者さんのための勉強です。

医学知識は年々細かく難しくなり、最新知識に追いつくのも楽ではありません。英語の最新論文を常に読むことができれば良いですが、(私のように英語が苦手な医者は)誰かのまとめた本のほうが効率的に勉強できることは確かです。また本によっては筆者の考えや思想、哲学に触れることもでき、論文よりも読み応えがあります。

また私の専門である総合診療科は「患者の困りごとにできる限り応える」のも必要な能力なので、自分の知らない分野を一つづつ勉強していく必要もあります。そんな時、正確だけど読みにくいガイドラインを読むよりは、理解しやすい本を購入したくなります。

医学書(専門書)は高い 

 医学書に限ったことではありませんが、専門性の高い書物は、需要の少ない分、高いです。

手持ちの本を計算したり、いろいろなサイトを調べてみると、だいたい1ページあたり10-15円程度、専門性の高いものは1ページで30円近くになるようです。一般的な文庫本は1ページ1-2円、雑誌だと1円以下(大人気週刊少年雑誌は400ページのボリュームでも200円台!)と、圧倒的に価格の差があります。

2000円の医学書はとてもお安いですが、ハードカバーの分厚い小説は少し高く感じる不思議……

せっかく買ったのに、ほとんど開いていない本もある…… 

 しかしせっかく買った高価な医学書ですが、全て読めているわけではありません。現役で役立っている本もいくつもありますが、逆にほとんど読んでおらず「積ん読」している本も多数あります。いろんな方面から怒られそうですが、言い訳させてくださいm(_ _;)m

 

1.医学書はネット通販がメイン、立ち読みできない
田舎では書店が少なく、かつ医者しか読まない医学書は仕入れ数が僅かです。ですので田舎の医師が医学書を手に入れようとするとネットでの購入がメインになります。面白そうな新刊が紹介がされていても、中身が見えない……じゃあ買うしか無いな、と、購入へのハードルが非常に低くなります。

しかしいざ買ってみると、あれ?あまり勉強にならないな?と思い、読むのをやめてしまった本のなんと多いことか。

2.忙しい
これが何よりの一番の理由かもしれません。仕事終わりに帰宅するとぐったりしています。そんな時にはがっつり本を読むより、何も考えずスマホや漫画をめくりたい……寝たい……読み始めると面白いのに、その1ページがなんと遠いことか……

 

 

本を読むことも、読まないことも愉しみたい 

ここで自分への言い訳をしてみました。

「積ん読は悪いことか?」

1.ご飯を残すことは責められることが多いでしょう。作ったご飯が捨てられると、もととなった命や、生産者・加工者の労力が無駄になるのですから。しかし、本は残しても腐りませんので、いつでも読むことができます。本は我々に読まれることを待ってくれています。

2.知識が古くなる、という欠点も確かにあります。しかし古いものも全てが悪いわけではありません。最新の知識だけでなく、本の多くは古くても大事な知識がほとんどです。時に、ワインやウイスキーのように、時代を超えることで洗練・熟成される知識もあるでしょう。

いま、私は積ん読している本たちを「読んだらおいしいだろうな」と、本棚で熟成させながら眺めています。(腐る前に読まないと……)

 

補足
この内容、ほとんどは2年前に書きました。本当にこの内容でいいのか?自分の感覚に頼り切っていないか?とお蔵入りしていたのですが、最近、私の言い訳を後押し?してくれる本を見つけました。(三宅香帆. なぜ働いていると本が読めなくなるのか. (2014). 集英社新書. )この本はどう働けば人間らしく、労働と読書を両立できるか?を命題に、日本の歴史を遡り、労働と読書の関係を考察していく流れだけでもとても興味深かったです。最終的な主張は「他人の文脈に触れる余裕をもとう、そのためには全てを仕事や家庭になげうつのではなく、半身で働こう」というものでした。全力をモットーとしてきた自分にとっては、今までの価値観を解きほぐすような難しい課題。しかしその先に本を読める生活があるのだと思うと……挑戦する価値はあるのかもしれません。

 

Author:中井翼


こちらのページは、鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
執筆、講演、研修、取材の依頼はお気軽にこちらからお問い合わせください。

BY tottori-idai-main 0