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171月 2023

最近出会った本〜仕事と関わりのある2冊の本〜

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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今回は私が読んだ本の中で、仕事と関わりのある2冊の本について紹介します。

 

ネガティブ・ケイパビリティとポジティブ・ケイパビリティのバランスが大事

1冊目は「ネガティブ・ケイパビリティ/答えのでない事態に耐える力」(帚木蓬生著、2017年出版)です。この本は当講座の話し合いの中で紹介されていたことがきっかけで読みました。ネガティブ・ケイパビリティとは「事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」をさします。医療ではこのネガティブ・ケイパビリティが重要となる局面が度々出てきます。私はこの言葉を初めて知ったとき「その能力に名前があって、本に取り上げられているのか」と思いました。性急に答えを出そうとして失敗した反省から、物事慎重に進めるようになったり、敢えて保留するようになったり、すぐには解決できない問題に直面し何ヶ月も、何年も苦しい時間を過ごした経験は医療関係者に限らず、皆さんにもあるのではないでしょうか。おそらくずっと昔から多くの人々がそれぞれの人生でネガティブ・ケイパビリティを試されてきたはずなのです。それなのに、なぜ今この言葉が注目されるのか、その理由にコロナ禍を挙げている書評を目にしました。コロナ禍に入って2年半以上が経過しましたが感染症や戦争の長期化など、世界中の皆さんが同時に「答えのでない事態」にさらされているのかもしれません。
もう1つ、この言葉を知って私が思ったことは概念ばかりが先行すると「きちんと向き合えば答えが出る事態」にも保留の姿勢をとってしまう恐れがある、という点です。対義語はポジティブ・ケイパビリティであり「できるだけ早く不確かさや不思議さ、懐疑の中から脱出する能力」といえます。この2つの言葉のバランスがとれる状態が理想でしょうし、そのためには自分の向き合っている事態が答えの出るものなのか判断する能力が重要になりそうです。

 

 

みんなの前でほめられることは嬉しいことですか?

 もう1冊は「先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち」(金間大介著、2022年3月出版)です。これは書店で並んでいる本を何となく眺めていたときタイトルが目にとまって思わず手に取った本です。最近の若者が他者との関わりをどのように捉えているのか、大学生・就活生および新卒を募集する企業対象の研究をもとにして書かれています。これは医療関連の書籍では無く、私が仕事上大学生と接する機会も多いため興味を持った本です。私自身、大学に勤めて大学生と関わるようになってから、皆が見ている前でほめられた学生をみて「あまり嬉しく無さそう、むしろ嫌なのかも」と思ったときが時々ありました(ほめられたポイントが的外れだった可能性もあります)。実際に読んでみると私が知りたい内容に多く触れられていました。その上の反論ではありますが、皆の前でほめられて嬉しい人も多くいる一方で「皆の前でほめることがモチベーションアップを促す」とは限らず、目立たないようにほめるほうが相手にとっては嬉しい時もあるはずです。ただ表彰されて待遇や実績のアップといった実利につながるような場合には事情が違うだろうと思います。また、この本では最近の大学生が皆の前でほめられることを喜ばなくなってきている傾向を取り上げていますが、最近の若者に限らず、社会全体でみても同様なのではないかと私は感じました。

 

 

現代の医学部医学科の学生についてもっと知りたい

 大学生を取り上げた本を読むとき私が気をつけているのは、医学部医学科はやや特殊な環境にある点です。カリキュラムは6年間あり、ほとんどが必修なので教室で共に講義を受けるメンバーはあまり変わりがありませんし、卒業後は研修医になることがほぼ既定路線で就活事情も他の学部学生とは異なりますので、この本の内容をそのまま医学部での学生対応に生かせる訳ではありません。高校を卒業してまだ日の浅いメンバーが多い低学年のうちは他の学部学生と類似傾向だと思いますが、高学年になると医学部医学科ならではの雰囲気や就職への考え方が芽生えてきます。医学部医学科の学生のイマドキの考え方にフォーカスをあてた本があればぜひ読んでみたいものです。

Author:今岡 慎太郎


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