現代の「将来の夢」事情と、思うこと
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子どもの頃、将来の夢は何でしたか?
先日、夫の親戚の未就学児の女の子が「将来の夢はお医者さんとバレリーナ!」と言っていたらしく、夫から「バレエやってるドクターがいるって聞いたことがあるから、どっちもできるよって答えた」と報告を受けました。バレエをしている医師はパッと思いつくだけでも複数人存じ上げています(どのくらいのレベルでしているかは人それぞれですが)。プロレベルの二刀流は並大抵の努力ではいかないかもしれませんが、不可能ではないのではと思っています。
医師として、他人(特に子どもたち)に医師という職業を勧めたいかというと実はそうでもないのですが、他愛もない子どもの憧れの職業として『お医者さん』が出てくるとやっぱりほっこりします。それに、かつて舞台人の端くれでもあったので、バレリーナというのもバレエを楽しんでいるのが伝わってきていいなと思います。その親戚の子がそんな、ある意味子どもらしい夢をどこまで追いかけるか分かりませんが、本人の言う限りは応援したいなと思います。
親が地元の保育園でボランティアをしており、毎年卒園式に呼ばれます。その園では卒園式のしおりに全員の将来の夢を載せているので、持って帰ってきたしおりを私も読んで癒されています。子どもの頃の将来なりたい職業って、自分のときとあまり大きく変わらないんだなと思いつつも、最近は具体的・現実的な夢を挙げる子が多いなと感じます。
もちろん、昔から「警察官」「お花屋さん」「ケーキ屋さん」などの比較的現実的な職業も人気だった記憶があり、今もその人気は健在のようです。アイドルや仮面ライダー、スポーツ選手など有名人に憧れを持つ子も変わらずいます。ただ、「お父さんが○○なので僕も○○になりたい」とか「外国に行ってこんな仕事をしたい」とか、「私が6歳のときそんな具体的なこと考えてたか⁈」とびっくりするような夢も普通に書いてあるのです。
ちなみに、毎年必ず「お医者さん」は書いてあります。しかも複数人。田舎なので園児数も多くないのに、です。私の幼稚園では「お医者さん」なんて誰も書いていなかったんじゃないかな…。さらに、なぜか女の子率が高いのです。想像するに、「○○ちゃんがお医者さんって言っているから私も同じにするー!」みたいな経緯のような気はするのですが、女性医師の存在感が社会的に増してきたから女の子が書いてくれるのかな、とも思います。
10年ほど前に、地元の小学校の卒業式をケーブルテレビで見たのですが、そこでも卒業証書をもらった子が将来の夢を一人ずつ宣言していました。そこで印象に残っているのは「UUUMに入社してYouTuberのサポートをしたい」と「国土地理院に入って地図を作りたい」です。小学校6年生、12歳ですよ。ちょっと具体的すぎやしませんか?
自分はもっとぼやーっと過ごしていたなあと、具体的な目標を掲げている子を見ると思います。
私の幼稚園卒園時の夢は「ウエイトレス」でした。よく行くレストランのウエイトレスさんのエプロンがかわいいからという、とても安直な理由です。結構夢みがちな子どもだったようで、小学校にあがると「漫画家」「小説家」「キャスター」など、少し現実離れした職業を転々とし(才能はゼロ)、6年生で卒業するあたりでやっと「医師」に落ち着きました。親は急に医師と言い出したことにかなりうろたえたようです。
その後、中学生、高校生と希望する進路は「医学科」で変わりませんでした。医師を志した理由ははっきり覚えていませんが、当時臨床をしていなかったとはいえ親が医師で身近だったこと、漠然と人体に興味があったことあたりかな、と思います。進路指導で医学科志望と言っても「やめた方がいい」「成績が足りない」と言われることもなく応援してもらえたので、そのまま受験に突入した形です。志望動機がふわっとしたままだったので面接対策には難渋しましたが、何とかストレートに合格し、今に至ります。小学校卒業時点の夢を叶えているという意味では、レアケースかもしれません。
私の話が長くなってしまいましたが、地元の保育園、小学校でそんな感じなので、全国的な「将来の夢」事情はどうなのか気になり、少し調べてみました。調査団体、調査方法により同じ年でもかなりランキングに違いがあり、基本的に小学生以上しかヒットしなかったのですが、これを書いている現在最新の2024年のランキングを数社参考にしました。
小学生男子はYouTuber、警察官、スポーツ選手、運転士、エンジニアなど、女子はパティシエール(ケーキ屋)、イラストレーター、医師、保育士・先生などがだいたいトップ5を占めています。YouTuberってそんなに職業として人気なのか。
なお、中学生を調べたランキングもありました。中学生男子はエンジニア・プログラマー、会社員、公務員、プロスポーツ選手、女子は学校の先生、看護師、公務員、薬剤師、保育士が上位です。なぜか急に公務員がランクインし、女子の医師が圏外、逆に男子では小学生で圏外だった医師が10位以内にランクインしてきます。高校受験を控え、現実的な進路を考えた結果なのでしょうか。確かに、進学する高校(偏差値、コースなど)によって希望できる職種は絞られてしまいますもんね…。
そして、子どもの「将来の夢」を考える上で気になってしまうのは、「その子が大人になった時にはたしてその仕事はまだ存在しているのか」ということです。
昔から技術の発展で職業が生まれたり無くなったりしてきましたが、AIの台頭などもあり、昨今その動きが激しくなっている印象があります。2015年に野村総合研究所とオックスフォード大が出した報告によると、「日本の労働人口の約49%が人工知能やロボット等で代替できる可能性が高い」そうです。何と、ほぼ半分。半分の人が仕事を奪われるように見えますが、人口減少が叫ばれている現代では、むしろ代替してもらってやっと水準がキープできるようになっていくのかもしれません。何にせよ、衝撃的な数字です。
「将来なくなる・なくならない職業」なんかもネットでセンセーショナルにリストアップされていますが、なくならない職業とよく言われるわれわれ医師も、実はAIで代替できる業務も多いと考えられています。自分の科はどうやって生き残るか、とおそらくどの診療科も思案していると思います。私たち総合診療・家庭医療も例外ではありません。
限られた労働人口(しかも減少傾向の)を必要な分野に割り当て、AIやロボットで可能な分野はそれでカバーする、というのは重要な課題ですが、その一方で子どもたちの憧れの職業がなくなってしまう、というのも寂しいところです。
私には2歳の子どもがいます。まだつたない言葉しか話せませんが、そのうち「将来○○になりたい!」と言う日が来るのだと思います。その夢が非現実的でも、コロコロ変わっても、近い将来なくなる職業にリストアップされていても、見守って応援してあげられる親でありたいです。きっと、成長するにつれて、情勢を見て自分で判断していくでしょう。でも、親としてある程度の軌道修正は必要かもしれないし、下手をするとただ傍観するだけになってしまう。一口に見守ると言っても、難しいところです。
もし「医者になりたい!」と言われたら……どうだろうなあ、やっぱりうろたえてしまうのかなあ。なるのも、なった後もハードワークなので、あまり強くは勧めず見守ることにします(笑)
Author:竹安 つばさ
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