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41月 2023

歴史について知識を深めること

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 私は歴史の本を読む事が好きです。最初にきちんと読んだのは小学校低学年の時で、子供向けに書かれた三国志の本でした。なぜ覚えているかというと、それまで自分が読んできた物語とは違って、多くの登場人物が志半ばにして病気や戦いで亡くなり最後は三国とも滅んで次の時代へ移っていく結末にとても驚いたからです。高校・大学の頃には司馬遼太郎先生の歴史小説を主に読みました。戦国時代や幕末・明治時代を生きた人々のキャラクターが分かりやすく描かれているので司馬作品で描かれたキャラクター像、そのまま世間一般のイメージとして定着している事も多いです。ただ、分かり易すぎるが故の違和感はあります。「人間ってこんなに分かりやすい生き物だろうか?」という違和感です。司馬作品では、キャラクターがはっきり書き分けられています。暗い人物はずっと暗く、明るい人物はずっと明るいです。確かに分かりやすいですがそんなことがあるだろうか、とだんだん不思議に思うようになりました。たとえば月刊誌連載の小説だと、登場人物の思考が二転三転するほうが読者にとって分かりにくいかもしれません。ただ二転三転するほうがリアルだとも思うのです。歴史上のちに対立する人物たちも、元から対立していたのかもしれないし、そうではなかったのに周りの人たちが何となく作った雰囲気が対立へ駆り立ててしまったのかもしれない。自分が歴史上の人物達や出来事に抱いているイメージは本当に正しいのかと疑問を抱くようになりました。

 

 

歴史学者が伝える歴史上の人物の感情の捉え方 

少し前に、歴史学者が自分の仕事を紹介している本を読みました。そこには「歴史学者は証拠もなく勝手に歴史上の人物の感情を断定してはいけない。歴史上の出来事や人間同士のやりとりが起きた順番を正しく整理して感情を推測するべきだ」と書いてありました。例えば「ある出来事を知った織田信長は不機嫌になった」と学会で主張したいなら、大きく2つの方法があるそうです。1つは信長と親しい人物が残した日記に「信長が不機嫌になった」と書いてある等の根拠を示す方法です。それがない場合、もう1つは当時の出来事や関係者の手紙のやりとりを時系列順に正しく整理して記述し、この流れならば不機嫌になって当然だろうと主張する方法です。ただ2つ目の方法には、後に別の手紙が発見されるなどの理由で時系列が変化してしまう可能性があります。

 

 

医療との共通点 

この話を読んで、医者にも共通する部分があると思いました。まず根拠のない主張をしても却下されるのは医学系学会も同じですし、出来事や人間同士のやりとりを正しく整理して感情を推測する点は患者の背景を推測する過程にも通じるものがあります。ただ患者と違って、僕たちは歴史上の人物に直接会うことが出来ません。これは私個人の考えですが、親しい人物が残した日記に不機嫌だったと書かれていても結局のところ人間の気持ちなんて本人にしか分からない、あるいは本人さえ自分の気持ちがよく分からないなんて事もありそうです。もう会うことの出来ない人の気持ちに寄り添うには、その人の置かれた状況をできるだけ正しく知った上でアプローチするしかありません。電車や飛行機がなく、インターネットや電話もないなら、コミュニケーションについての考え方も違うはずです。医療についても、解剖学などを扱った西洋医学書が日本で翻訳されるようになるのは江戸時代中期以降で、抗生物質も20世紀に入ってから本格的に発達しました。には解剖学の知識も抗生物質もなく医療を提供するなど想像もつきません。今と違い平均寿命は短いはずで、自分の健康状態を正しく把握していない人の方がずっと多いはずですそうなると命に対する考え方も、私たちにとっての当たり前が通用しないかもしれません。歴史ドラマで、健康長寿や病気快癒を願って寺で祈祷するシーンをよく見かけます。他には、偉い役職に就けるよう推薦されたのに「前任者が不幸な亡くなり方をしたので別の役職に就きたいです」などと断っているシーンもあります。現代では科学的根拠に乏しいように思える事でも、当時の人々にとっては普通だったのかもしれません。

 

歴史について知識を高めることで得られること

上に書いたように、歴史学者が歴史上の人物達について学術的に主張する場合、それなりの根拠を添える必要があります。戦争や災害で失われた史料も多くあるので、どう頑張っても研究に限界があるテーマも多いそうです。ただ私のようなアマチュアの歴史好きにとっては自由に想像できる余地がたくさんあって楽しいですし、歴史について知識を深めることがひとりの人物を多角的に捉えるトレーニングにもなりそうだなと感じています。

 

Author:今岡 慎太郎


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