ある映画の背景から考えるリーダーシップと役割分担
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1年前、「シン・仮面ライダー」という映画(庵野秀明監督)が公開されました。この映画公開と同時期に、NHKでこの映画を題材にしたドキュメント番組が放送され、その内容がネット上で賛否両論を呼びました。この番組は、庵野監督に密着して映画が出来るまでを取材したものです。特に大きな賛否両論を巻き起こしたのは、庵野監督とアクション監督のやりとりでした。私たちが普段映画やドラマで目にするアクションシーンの多くは映像としての格好良さや安全性を確保するため、あらかじめアクションの流れを打ち合わせしておいた上で撮影されています。アクション監督はアクションの流れを考えたり、実際に俳優との打ち合わせや指示を担当する役職です。しかし、庵野監督はそのアクション監督のプランを現場で変更したり、最終的にはアクション監督ではなく俳優達自身に考えさせるよう伝えました。庵野監督にとっては、最初から流れが決まっているアクションをやっても戦いの生々しさが欠けてしまうのではないかと考えたための行動でした。しかしスタッフや俳優の間には相次ぐ変更に戸惑いが生まれたり、アクション監督が「こんなに変えられたり、結局俳優達に任せるなら自分がいる意味がわからない」と不満を漏らす一部始終が取り上げられていました。私はこの番組を見逃し配信で、既にSNSで賛否両論があることを知った上で見ました。賛否両論、と書きましたが庵野監督のやり方に批判的なコメントの方がネットにはあふれていました。私も「こんな監督が上にいたら仕事やりたくないな」と感じた側です。
職種によってのリーダーシップの所在の決め方、在り方
一方で、「これは普通によくあることだ」という感想をネット上にアップしていたのは主に映像・芸能関係の仕事をしている方々でした。つまり同業者からは、世間一般の視聴者から批判の集中した部分に対しての違和感は少なかったようなのです。私が見た範囲でもう少し詳しく記すと「誰かがリーダーシップを発揮しないと面白い作品は作れない。最悪のケースは多くのスタッフやキャストを長らく拘束したのに何の魅力も無い作品が出来てしまう、あるいは作品が完成しないこと。でも魅力ある作品を継続して生み出せるリーダー(監督)は一握りで、その監督達の多くは困難に直面したときに、明確な方法論をパッと提示して導いてくれるタイプでは無く、散々悩んで試行錯誤を繰り返しながら前進するタイプ。スタッフ達だってその試行錯誤に振り回されるのは覚悟の上で、監督の実績や才能を信じて作品づくりに挑んでいる」という意見でした。リーダーシップの所在の決め方や、そのあり方は職種によって様々なのだと思いました。
上記のように、世の中には仕事をテーマとした書籍や映像コンテンツがたくさんあります。
医療現場での個々の役割分担と医療を扱うメディアコンテンツに対して
医療現場には、様々な資格を持った人々が関わっています。その資格ごとに何をして良いのか、逆に何をしていけないのか、法律によって定められている部分は大きいです。従って、医療現場に集まった各スタッフの役割はあまり変わりません。もちろん医療機関によって、あるいは同じ医療機関の中でも部署によって、細かい役割分担が違っていることはありますが、特別にスタッフ間で相談をしなくても役割分担は自ずと見えてきます。私は医師なので、チーム医療の中心に立って医療的処置を行い、方針に沿って各職種のスタッフに指示を出す役割を担います。医療を扱ったメディアコンテンツでは、冒頭に記したように法律レベルで定められている役割分担が大前提として存在することを頭に入れた上でチェックしていただく方が良いと個人的には考えています。
Author:今岡 慎太郎
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