ゆるい読書会@とっとり:「櫓太鼓がきこえる」を読む
さる7月30日にゆるい読書会にて、鈴村ふみさんの「櫓太鼓がきこえる」(集英社)のオンライン読書会を開催しました。
角界の裏方「呼出」に光を当てた新しい相撲小説で、本作品で鈴村さんは第33回小説すばる新人賞を受賞されています。境港市出身の鈴村さんは、鳥大病院内に2021年に新しく出来た書店「カニジルブックストア」の店長さんも務めておられます。
あらすじ:17歳の篤は高校を中退し、親との関係が悪化する中、先の見えない毎日を過ごしていたが、相撲ファンの叔父の勧めで相撲部屋に呼出見習いとして入門することに。関取はいないし弟子も少ない弱小の朝霧部屋で力士たちと暮らし、稽古と本場所を繰り返す日々が始まる。兄弟子力士たちの焦りや葛藤を間近に感じながら、「呼出」という仕事に就いた自分の在り方を見つめ直していく。
読書会には、医学生、医師、助産師などが参加し、さまざまな意見が交わされました。
- ある青年のビルドゥングスロマン(成長小説)。途中からどんどん引き込まれた。
- さわやかな青春小説。高校を挫折し角界へ。良き先輩と意地悪な先輩。仕事での大失敗とその克服。家族との葛藤など、さまざまな人間模様が描かれる。
- 角界というまったく未知の世界が、等身大の若者たちの姿(例:携帯をいじる力士)で描かれ、身近に感じた。生で相撲を観てみたいと思った。
- 相撲部屋の中での力士たちの役割が面白かった(ちゃんこ長、ストイックな人、挫折しながらも克服していく人など)。
- 「ちゃんこ長」という役割も力士が本当にやらなくちゃいけないのかが気になった(練習不足になるのに)
- 意地悪をしてくる光太郎の存在が気になった。「敵」ではなく、自分のことを羨望したり、気になっているからこその態度か。
- 呼出で名前を間違えるという大きな失敗をしたときの動揺と、その後に世界の見え方が変わってくる感じ。自分が研修医のときの失敗を思い出した。
- ファンのアミとはその後、どうなったのか?(小説に続きがあるとしたら、を考えると面白い)
「呼出」という名前は私も初めて知ったのですが、たしかに行事さんとは別の人が、力士の名前を呼び上げています。「ひが〜し〜、〜〜の山」と力士名を高らかに呼んでいる人ですね。そんな一見、裏方のような存在に光を当てたところも面白いですね。
ちょうどテスト期間を終えて参加した医学生さんからは、「新人の視点・気持ちが描かれていて、学生の自分には(試験疲れをした頭にも)とても読みやすかった」という意見が聞かれました。
カニジルブックストアのユニークなところは、さまざまな著名人が選書をしていることで、歌人の俵万智さんや、お笑い芸人の水道橋博士さんの選書、また、児童文学研究者の野上暁さん選書の質の高い児童書もあります。運営する会社「カニジル」の社長で、ノンフィクション作家の田崎健太さんの書籍ももちろん置いてあります(私は「偶然完全 勝新太郎伝」と「真説・長州力 1951-2015」を読みました)。
店長の鈴村ふみさんに会いがてら、是非、カニジルブックストアにも立ち寄ってみてください。
(孫大輔)