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97月 2021

父と子の対話に学ぶ子育てコーチング

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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先日、子どもの砂浜マラソン大会がありました。弓浜半島に面した学校のため、毎年砂浜を走る過酷なレースがあるのです。我が子は前日から緊張していて、当日朝はお腹が痛くなりトイレに何度も行き、朝は不安げに出かけて行きました。私は仕事で見に行けず、夫が観覧しに行くことになりました。

マラソン大会が終わったあたりの時間帯に、夫から我が子の走っている姿が動画で送られてきました。どんどん抜かれていき、最後にはトボトボ歩いていて……、それでも最後は走り直してゴールに向かう姿でした。本人が想定していたレースよりかなり遅くなったみたいです。(あらら……)困惑した感情が私の胸をよぎりました。

動画とともに送ってきた夫のメッセージは、「よく頑張りました」

そうだよなあ、緊張の腹痛の中、砂に足を取られるなかよく頑張った。

私が見に行っていたらどういう感想を発しただろうか……?

 

 

我が子の経験から、親としての自分の行動を分析

コーチングの重要な3つのスキルは「傾聴」「質問」「承認」と言われています。

「承認」には3つのタイプがあります。

①存在承認……存在自体を承認する

相手の存在を承認します。例)目を見てうなずく、意見を聞く、挨拶をする、名前を呼ぶ

②行動承認……行動に対する承認

相手が行った行動に対して承認します。

③結果承認……結果・成果に対する承認

相手が行動し、得た成果や結果を承認します。

人間のモチベーションの土台となるのは存在承認で、樹木で言えば根っこの部分にあたります。行動承認は樹木の枝葉の部分で、結果承認が果実にあたります。根っこや枝葉を大事に育てないで、結果の果実だけを要求しても実りません。

承認のスキルとして、良くない結果の場合は行動と存在を、良くない結果と行動の場合は存在を承認することで承認欲求はある程度満たされます。承認欲求が満たされることで、自らの存在意義や人間としての在り方などを肯定し、積極的に自分を評価できる「自己肯定感」という感情が高まり、目標達成(自己実現)へのモチベーションを保つことができると言えます。

おそらく我が子は、期待する順位という結果は獲得できなかったけれど、「マラソンを頑張った」という「行動」を承認することができます。仮に走れなかった場合も、「マラソン会場に行った」という行動や「学校にいた」という存在承認をすることもできます。

動画を見て、(どんどん抜かれて最後は歩いてるけど、結局何位だったの?)と思ってしまった私は、行動承認せずに結果を求めてしまったことになります。親の期待がまず結果に向かうと、それが得られなかった場面で子どものモチベーションや自己肯定感は低下してしまいます。メッセージでは結果に触れず「頑張ったね」と返しましたが、まるで夫に試されているようですね……。

 

 

子どもの成長から考える相手の、そして自分の自己肯定感

家に帰ると、さっそく我が子からマラソン大会の報告がありました。「〇位だった…砂浜はえらかった。△△ちゃんは5位だったのに……。」こんな時、どんな声掛けをすべきでしょうか・・・?

夫と我が子の会話を盗み聴きしました……。

父「今日はマラソンすごく良く頑張ってたねー!」(行動の承認)

子「うん、でも遅かった……」

父「どう思ったの?」(質問)

子「くやしい。もっとはやくなりたい!」

父「いいね。次のマラソン大会では、どれくらいを目指す?」(質問、⑧子どもに決断させる)

子「わからんけど……これから練習する!」

父「お!〇ちゃんはすぐやる気になるところがいいところだね!じゃあ父ちゃんも一緒に走ろうかな~。いつからどこを走る?明日から?日曜日から?」(質問、⑦欠点より長所を伸ばす、⑨選択肢を用意)

子「え、明日はまだ……」

父「〇ちゃん決めてよ」(⑧子どもに決断させる)

子「夏が過ぎてからかな~今はあついし」

父「そう。いやーでも、今日は見に行ってよかったよ。〇ちゃんの頑張っている姿を見て父ちゃんも頑張ろうって思えた。ありがとうね」(④子どもに感謝)

「家庭で子どもの自己肯定感を育む12の方法」
  1. 子どもに頻繁に声かけをする
  2. 子どもの話をよく聞く
  3. 親が感情に左右されない
  4. 子どもに感謝する
  5. 子どもをよく見て、よく褒める
  6. 子どもを他の人と比べない
  7. 欠点を直すより、長所を伸ばす
  8. 子どもに決断させる
  9. 選択肢を用意して、自分で決める力を育む
  10. やってあげるのではなく、手本を見せて手伝う
  11. 子どもの感情が爆発したときは、子どもを責めない
  12. あるがままの子どもを認める(ボーク重子『「非認知能力」の育て方』より抜粋)

なるほど、①②③⑥⑫などを基盤に、日常生活でもコーチングをしっかりしていますね。

 上記に挙げた12の方法は、相手が子どもでなくても医療現場や地域社会でも役立つポイントだと思います。

私は、もともと自分自身が自己肯定感が低いため人からの評価や言葉に敏感でストレスを感じやすく、いつの間にか子供のコーチングから道をそれて、ネガティブフィードバックを重ねてしまっていたのかもしれません。職場ではポジティブに矯正する努力をしていますが、家に帰ると素の状態に戻ってしまいがち。フルタイム勤務とはいえ夫に比べて一緒に過ごす時間が長いため、子どもの前で常に自分をポジティブに矯正し続けることも実際難しく、感情をあらわにしてしまうことも多々あります。

何よりもまずは、子どもの方を見て話を聴くこと(存在承認)。急がない仕事は家に持ち込まないで、スマホを見ないで、子どもと向き合いたい。そのためには、最近増える一方の仕事や身の回りにあふれる情報も、ある程度仕分けしないといけない……。子どもの態度や私のイライラの原因は自分や環境にもあるのでは……。

今回夫の対応を見ていて、あらためて勉強になりました。夫とはほとんど会話がなく、子育てについて話し合えないのは玉にキズなのですが、夫の無言のメッセージを受け取った気がします。子どもが幸福であるためには親が幸福であること。そのために無理をしすぎず、自分自身も自己肯定感と幸福度を高めながら日々子どもと関わっていきたいと思います。

私も砂浜マラソン一緒に練習しようかな!!

 

Author: 紙本 美菜子


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