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288月 2023

「ドラえもん」とつむぐ地域医療

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 AI(人工知能)がここ数年で急速に進化している。様々な疑問に答え、資料作成も補助し、使い方によっては話し相手にまでなってくれる「Chat GPT」を使ったことがある人も多いだろう。すでに医療業界でも病気の診断などに利用されている。医療車の少ないへき地や夜間救急など、専門医になかなか相談できない場面では、専門医に代わり助言を授けてくれるAIは非常に頼りになる相棒となるだろう。しかし様々な業界で「AIが人の仕事を奪っていく」と言われており、今後人間の医師の立つ瀬がなくなる可能性も十分にある。しかも先日は「人間の感情を汲み取り、共感する能力」が人間の医師よりAI(Chat GPT)のほうが優れている、という論文がでたくらいだ。共感や感情を読み解く力は機械には真似できない、医者が生き残るにはこの道しかない、と思っていた所にこの論文である。ちょっとお手上げだ。 ただ、ここまで技術が発展すると、それはそれでワクワクする。この話を聞いた時、私は反射的に「『ドラえもん』の時代が来るかもしれない」とも思ったほどである。

 皆様もよく知っている、言わずとしれた国民的作品の「ドラえもん」。22世紀の未来の世界からきた猫型ロボットとのび太を主軸とした話で、四次元ポケットから出てくる夢いっぱいのひみつ道具から織りなされる展開にワクワクしたものだ。また原作者の藤子・F・不二雄先生はSFマンガ家としても知られる。ただしこのSFというのは一般的なサイエンス・フィクションではない。「すこし・ふしぎ」の略である。ドラえもんのように、「ありふれた日常の中に紛れ込む非日常的な事象」をテーマとしたジャンルとして先生が提唱した概念だ。昨今のAIの発展をみると、「すこし・ふしぎ」な藤子・F・不二雄ワールドがもう現実になっていると錯覚するほどだ。

 

 

医者になった今の立場での発見 

 そんな「すこし・ふしぎ」があふれるドラえもんの世界で、のび太が22世紀で裁判にかけられたエピソードがある(以下、アニメのネタバレになるので読み進める際はご了承いただきたい)

あらすじとしては「ドラえもんがある日不具合を起こし動かなくなり、その原因はのび太がドラえもんに頼りすぎたせいだ、『ロボットは人間のパートナーであり奴隷ではない』というロボット条例に違反するとして、のび太が罪人として「ロボット裁判」にかけられる、というエピソードである。最終的にはドラえもんとのび太の強い絆を示す行動により、ロボット裁判官たちが胸を打たれ、のび太は無事に無罪となる結末で幕が降ろされる。子どもの頃に視聴した際は「二人の友情が深まった!良かった!」と思っただけだったが、医者になった今の立場で思い返してみると、いくつかの発見がある。

1.ロボット(AI)の権利と責任について

 このエピソードでは、ロボットが裁判官となり、ロボット(ドラえもん)の権利を守るため、人間(のび太)を裁いている。これはロボットに人権(ロボット権?)を認めているように推測できる。人類の歴史を振り返ると、「権利」を獲得するには、長く地道な活動や、闘争が関与していることが多い。もしかしたらロボットの権利を獲得するために、様々な活動家や政治家が頑張った歴史があり、ドラえもんの権利が保証されているのかもしれない(血塗られた闘争がなかったことを祈るばかりである)。

 さて、ロボットが権利を持つのであれば、それに付随して「責任」も生じてくると予測される。ここで医療とロボット(AI)との関係について話を戻したい。現在、医療現場でもAIは診断や治療の補助に少しずつ使われつつある。ただこの場合、その診断や治療でなにかあった場合、AIには責任はなく、AIをつかった医師に責任があると考えられる。AIは道具であり、人権が認められていないからだ。しかしドラえもんの世界では、ロボットにも権利と責任が認められている。医療者は、患者の健康や命を責任を持って預かる立場にある。その責任の重さで立っている、という面もあるくらいだ。この重みもロボット(AI)が全て肩代わりするのであれば、22世紀には人間の医師はいなくなっているのかもしれない。

2.ロボット(AI)と人間の関係性について

 悲観的な話をしたが、希望はある.それは「ロボットのアシスタント」となることだ。ドラえもんとのび太の関係からもわかるように、ロボットと人間は互いに補い合い助け合う関係にある。特に我々の専門とする「家庭医療」は、その特性上、ロボットのアシスタントに最も向いている診療科だと考える。元々総合診療医/家庭医は、様々な患者の困りごとを、様々な専門医・医療スタッフ・地域のみなさんと協力しながら解決する働き方をしている。なので、その中にドラえもんがいてくれれば、きっとうまく協力しながら働くことができるだろう。さらに、「家庭医療」の研究テーマの中には「人間関係」や「患者の内面世界」を分析するというものもある。ドラえもんとのび太の例からもわかるように、AIと人間の関係性もまた家庭医にとっては非常に興味深い研究対象なのである。

 

AIと家庭医

 昨今のAIの台頭により、様々な職業がなくなる可能性があると危惧する人もいる。医師もその職業の一つである。しかし仮にAIが権利と責任を手に入れ、人間の医師が要らなくなったとしても、我々家庭医はそれすらも呑み込んで働くだろう。むしろ私としては、ドラえもんと働く未来が楽しみである。

 

Author:中井 翼


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