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105月 2022

映画『うちげでいきたい』完成報告―映画を通して伝えたいこと

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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ちょうど一年前の5月に「映画(再び)つくります」というブログを書きました。そのときは「本当にできるのかな……」ととても不安でしたが、さまざまな困難を乗り越え(コロナ禍の中での撮影も実現し)、今年の2月に無事に映画『うちげでいきたい』が完成しました!

映画の舞台とロケ地は大山町。スタッフやキャストもほぼ山陰両県の人たちで、地元の人たちにも大いに協力してもらって完成した38分の映画です。現在、大山町内や鳥取県内各地で上映会を企画しているのと、県外でも自主上映会の企画を進めてもらっています(スケジュールの詳細は、映画『うちげでいきたい』ウェブサイトをご確認ください)。

 

 

映画のあらすじ

米子市に住む高校生の瀬川莉奈は、進路に迷いシングルマザーの母・珠美との葛藤を抱えている。そんなとき、大山町に住む祖母・民代が末期がんになったと知る。民代は、引きこもりの伯父・雅文と二人暮らし。民代は「自宅で最期を迎えたい」と言うが、珠美は猛反対。莉奈は民代の家に短期滞在し、訪問医や訪問看護師の協力もあって、祖母・民代の願いを実現させようと動き始める。雅文もそれなりに良き息子を演じようとする。珠美も母を喜ばせようと振る舞う中、珠美の元夫・明彦も登場し……。

 

 

映画のテーマ:在宅看取りと家族のかたち

 映画のプロットは監督の私が考え、脚本は劇団OiBokkeShi主宰で劇作家・俳優の菅原直樹さんに書いてもらいました(菅原さんのインタビュー記事のnoteも合わせてご覧ください)。

映画の主題は「自宅で最期を迎えること(在宅看取り)」ですが、在宅介護の様子は控えめな描写となっており、むしろ瀬川家の家族の物語が主軸にストーリーは進行します。引きこもりの息子と二人暮らしをしている高齢の母(いわゆる「8050問題」)、不登校の娘を抱えるシングルマザー、離婚した両親を持つ高校生など、現代にありがちな課題を抱えた家族が登場します。主人公は祖母の民代ですが、もうひとりの主役は孫娘の莉奈です。自分に残された時間が少ないと分かったとき、民代は自分らしい最期を生きようと決意します。そして、民代の家族である息子や娘、孫たちも、それぞれの立場で互いにぶつかり合いながら、自分にできることを探っていきます。観客は、三世代どの立場でも感情移入して観ることができる作品になっています。

 

「演じること」とケア

この映画では、「演じること」がもう一つのテーマとなっています。引きこもりの息子も、母に「望まないことをたくさんさせられた」と語る娘も、母を喜ばせようとするために「演じる」のです。それは、真実ではないことを母の前ではあたかも真実であるかのように見せる行為なのですが、その行為は相手を思いやるがゆえになされています。

脚本の菅原直樹さんが、演じることとケアの関係についてこう語っています。

「今回の家族では、最後、珠美と雅文が演じるじゃないですか。最初はしてあげるための演技だったけれど、途中で特に雅文と民代のやりとりは本音が出ている。演技だったものが真実になっているわけですよね。役を演じてお母さんにある台詞を言うと、お母さんはそれに応えるわけですよね。これはお母さんにとって、もしかしたらずっと言いたかった台詞かもしれない。で、さらにそれに息子が返事をする。これももしかしたら、ずっと言いたかったけど言えなかった台詞かもしれない。なので演技はきっかけなんだけれども、そこで本当に言いたいことは言えたっていうね」(note記事より)

「演じる」ということは、相手を騙すばかりではなく、相手を思いやり、ケアする行為なのかもしれない。演じるからこそ、そこに真実や本音があらわれるのかもしれない。そう考えると、「演じる/演技をする」ということは必ずしも悪いことばかりではなさそうです。

 

映画『ドライブ・マイ・カー』との共通点

「演じること」と「生きること」がテーマになっている映画作品には、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』があります。主人公の俳優・演出家の家福は、妻の浮気を知りながらも、妻の前ではあたかもそれを知らないかのように演じ続けます。妻との関係性を壊したくないあまり、彼は演じることを続けてしまうのですが、そのために後になってとても苦しむことになります。彼の人生にとって、演じることと生きることは表裏一体となっており、誰かの人生を演じるということを通じて、生きることの本質に辿り着こうともがき続けるのです。

私たちは、自分の人生を生きていると思っていても、実は誰かの人生を演じているのかもしれません。映画『うちげでいきたい』の登場人物たちも、良き母や、良き息子、良き娘を演じようとします。その演じるという行為の中で、逆に本音が言えたり、相手を思いやることの本質が見えてきたりする。そういうことかもしれません。

 

 

映画を通した地域住民との対話

4月以降、各地で映画上映会とトークセッションを実施しています。映画をつくるプロセスも大変面白いものでしたが、それ以上にこの映画の上映会を通した「地域住民との対話」がとても楽しいと感じています。4月3日に開催した中山温泉(大山町)での上映会には約150名もの観客が来場し、上映後にトークセッションを行いました。会場からの質問・コメントでは「後になって後悔しないように、若い人らにも映画を観てもらって、早いうちから意識を変えてほしい」という年配の方や、「もしも映画の状況が男女逆だったら、妻が早くに亡くなり、夫である自分が一人残されたらと考え、妻をもっと大事にしようと思った」という高齢男性の声があり、とても考えさせられました。

今後の予定は、5月28日(土)に米子コンベンションセンター(鳥取県米子市)、7月23日(土)に豊岡劇場(兵庫県豊岡市)で上映予定の他、各地で上映会を予定しています。また、自主上映会の申し込みも受け付けています(詳細はこちらから)。お気軽にお問い合わせください。

 

Author:孫 大輔


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