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2610月 2019

おばちゃん家庭医、女性診療を学ぶ!

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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『なんでだろう?みなちゃんになら、生理のことも普通に話せちゃうんだよね』。

中学生の時に、同級生から言われた言葉を最近よく思い出します。アラフォーの今になり、いろいろな過去の経験や周囲の人からかけてもらった言葉が自分の原動力になっているなぁ、と思う今日この頃です。

私は、生涯「おばちゃん家庭医」として老若男女の健康を考えながら生きるつもりなんですが、特に女性のひとりとして周りの女性の悩みを聴くことができる存在になりたいと常々思ってきました。

 

PCOGウィメンズヘルス・ブートキャンプって?

そこで、9月23日に日本プライマリ・ケア連合学会の秋季生涯教育セミナーで、PCOGウィメンズヘルス・ブートキャンプに参加してきました!

PCOG(Primary Care Obstetrics and Gynecology)とは、女性が生涯を通して健康な生活を送ることを支援するため、プライマリ・ケア医と産婦人科医が協力して活動するチームです。

ウィメンズヘルス、すなわち女性医療(Women’s health)とは、女性特有の疾患や性差による病態の違いを考慮しながら、女性が生涯を通して健康な生活を送れるよう、ライフステージに応じて支援する医療です。(PCOGホームページ:http://www.pcog.jp/pcog/ より抜粋)

みなさんは、女性特有の疾患というとどんなものを思い浮かべますか?男性にはない機能として、月経(生理)、妊娠、出産などがわかりやすいかもしれません。

すべてのプライマリ・ケア医がお産をとるということはないまでも(一部の地域では求められます)、月経に伴う不調や、妊娠前ケア、産後うつへの対応や陰部トラブル、更年期障害などに対応することはできます。また、産婦人科医の少ない地域などでは一般診療医による子宮頸がん検診なども行われています。

 

PCOGで学んだこと

今回のPCOGで学んだ項目についていくつか挙げてみたいと思います。

緊急避妊ピル(通称:モーニングアフターピル)

妊娠経験者のうち46%が計画外妊娠で、望まない妊娠のうち71%が中絶に至っています。H28年の厚労省の統計では、我が国のすべての妊娠に占める中絶の割合は、14.6%で15-49歳の女性1,000人あたり6.5人が中絶しています。

日本の性教育はまだまだ不十分な点があり、調査によると性交渉歴のある未婚者の90%、既婚者の40%が避妊を実施しているが、そのほとんどがコンドームや膣外射精であるそうです。

コンドームでの妊娠阻止率は8割程度で、裏返せば18%の人は妊娠します。膣外射精の場合、妊娠率は22%です。また女性の視点からみれば、どちらも男性主導の避妊法である点が問題です。それにも関わらず「コンドームつけよう」の言葉の言えない人がどれだけいることか……チコちゃんに出てきてもらいたくなってきましたね(笑)。

緊急避妊ピルは、避妊をしなかった、避妊に失敗した場合、性暴力を受けた後などに、おこる可能性のある妊娠を回避するのに利用する避妊手段です。

緊急避妊ピルの処方は自費診療で、薬剤は2種類ありますが、高いもので15,000円、安いもので4,000円です。吐き気などの副作用と服用方法に違いがあるため、医師―患者で相談して決定します。いずれの薬も、性交渉から72時間以内に服用する必要があり、早ければ早いほど妊娠を防げるとされています。

月経移動

大切な予定のある日に、つらい生理が重なってしまったことはありませんか?

受験、大会、旅行、ブライダルなど、予定の少し前に相談することで、ホルモン療法で生理をずらすことができます。イベントの前までに月経を早める方法と、イベント終了までに月経がこないように遅らせる方法の2パターンがあります。

薬や副作用、服用方法がそれぞれ違います。女性アスリートなどは月経の影響でパフォーマンスが変わることもあるようで、知識のある指導者・アスリートはこの方法を採用しているという話がありました。

OC・LEP製剤(ピル)の処方

OC(Oral contraceptive)は経口避妊薬、LEP(Low dose estrogen-progestin)は低用量エストロゲン・プロゲスチンの略語です。どちらも同じいわゆる低用量ピルですが、避妊目的のピルをOC、月経困難症や子宮内膜症など疾患の治療を目的として用いる薬剤をLEPと呼び、ホルモンの配合量が少し違います。

ピル=避妊!というイメージが強いですが、中には治療目的で飲んでいる女性もいるのを知ってください。毎月、ひどい生理痛や腰痛などで鎮痛剤が効かない、会社や学校を休まなければならないなど、日常生活障害が起きている場合は、低用量ピルによる治療も検討されます。

避妊をしたい、月経をコントロールしたいすべての女性が処方の対象ですが、喫煙者や高血圧の人など血栓症リスクが高い人には処方できない場合があります。

子宮頚部細胞診=子宮頸がん検診

産婦人科医でなくても、トレーニングを受ければ子宮頸がん検診をすることができます。今回は人体モデルと器具を使って、がん検診の手技を経験させてもらいました。私自身も経験があるんですが、あれ痛いんですよね~。痛みがないようにするためには……など産婦人科の先生に教わりました。

以上、ほんの一部ですが、女性診療についてちょっとできる気がして帰ってまいりました。

こんな時こそ「おばちゃん家庭医」の出番

現在鳥取県では、市内を中心に産婦人科医院が複数あり、基幹病院もあるため、一般診療医に対する女性診療のニーズとしては多くないかもしれません。ただ、郡部の病院では、大学からの診療派遣がなければ専門診療は行われていないところが多いです。

何より重要なのは、私も含め世の中の女性が求めているのは必ずしも「病気の診断・治療」だけではないということです。むしろそれだけではなんかモヤモヤが残る、スッキリしないことの方が多かったりして。

その時の疾病の背景には、小児期・思春期・妊娠~出産~産後・子育て期・更年期・老年期などのライフステージによる心身への影響が絡んでいたりします。家族との関係とか、仕事と家庭のバランスとか、性のこととか……そういう悩みや迷いを口に出せる環境や小さい頃からの教育環境が整っていないという地域社会も課題山積だと個人的には思っています。

多くの女性にとって、「聞いてほしい」「わかってほしい」「ちょっと相談してみたい」っていう思いが高まるときってあるんじゃないでしょうか?で、いろいろ取り留めなく話した挙句、パートナーには「結局なにが言いたいの?結論は?」と言われ場はしらける(実体験)(笑)。そこんところ、おばちゃん家庭医が引き受けます!

『なんでだろ?みなこ先生になら相談できちゃうんだよね』。そんな声を目標に、今日もおばちゃん家庭医の修業は続きます……。

 

Author: 紙本 美菜子


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